2023.03.06 #55 幼馴染(おさななじみ)の肺癌2023年03月06日

あたしには、いつも相談にのってくれる60年来の幼馴染(おさななじみ)、A君がいる。あたしだって相談したいことがあるんよ。

彼の意見はいつもあたしを震わせる。感動するんよね。

幼稚園で好きな子ができた時、進学の時、クリニックを始める時、運営に困った時。

あたしのあらゆる相談を引き受けてくれたA君。そんなA君が肺癌になった。

年末のある日、A君は友人Bから大腸検査と胃カメラを勧められた。A君は今まで病院のお世話になったことがない。健康そのもの。友人B曰く

「え〜〜〜? 60歳超えてるのに1回も検査したことないんかぁ? そりゃあかんで、俺なんか50歳過ぎてから毎年やってる。早期発見せんとあかんやん」

A君は友人Bが手配してくれた病院で検査をした。

大腸ファイバー・胃カメラ・レントゲン。モノはついでと、CT・MRI・エコー・血液・尿検査などなど、入院して一気に行った。市民検診の超豪華バージョンやね。友人Bは、

「よかったなぁ、胃も大腸も問題なしやって。あははは。ところで、お前の肺や。真っ黒クロスケやん。裏で見せてもろたら授業で習った最悪の肺の画像そのものやったで」

授業で習った? A君の友人Bは医者だった。

『お前、タバコやめんとあかんで』

A君は未成年の頃からタバコを吸っている。すでにタバコとの付き合いは半世紀。A君の斬新な発想はタバコという相棒のおかげ。愚かですが、これが彼の生き様です。

友人Bのありがたい意見に対し、A君は『今更止められるかい』と一言。

A君の友人Bはあたしの友人でもある。Bはあたしに「お前もAにタバコやめるように言ってくれ」という。もちろん言いましたよ。でもねぇ〜、A君は即答拒否。

A君は意見を述べる時、フロイドのように葉巻をくゆらせる。その意見は考えもしない発想をあたしに産む。感動するんや。

ではA君がタバコ止めるとどうなる?

あたしは悪魔に変身する。

「多分Aがタバコを止めると『ぼーーっと普通の人』になる。Aはそんな人生を望むか?」

あたしは『ええやん。吸うとき』 

最低ですね。

あたしはA君の診立てを医者のBに聞いた。

「多分パンコースト腫瘍やな。肺やから転移も早いで。脳にもすぐ転移する。最悪や」          (つづく)

#56 23_3_20 友人A君の余命は5ヶ月2023年03月20日

(前回からの続きです)

あたしの友人A君の肺に影が見つかった。どうも肺癌が疑われる。精査するためにA君の友人Bは、かつて勤務したことがある病院の呼吸器外科にA君を紹介した。

肺癌は進行が早いので急ぐ。レントゲン・MRI・血液検査・心電図・肺機能検査・造影剤を使った脳のCT、そしてPET(ペット)と一気に検査を済ませた。

結果・・・・・

外科医師
「Aさん。画像のデータを見る限り肺癌ですね。幸いまだ脳には転移してませんが、腰と仙骨周辺に転移してます。しかも間質性肺炎も疑われる。肺気腫もあります。

もうAさんの肺はボコボコですよ。タバコ? すぐ止めてください。タバコは怖いですよ。タバコはナメたらあきません!ナメたら!」

A君
「先生、タバコはナメるものではなく。吸うものです」

外科医師
「・・・・(汗) この癌はステージ4の位置にあり手術不可能です。呼吸器内科を紹介しますから診察と検査・治療をうけてください」

A君は呼吸器内科を受診。入院して細胞検査。数日後、癌と確定診断されました。

内科医師
「外科の先生からお聞きかと思いますが、癌の転移があり手術は不可能です。ステージ4です。抗癌剤治療が必要です。

ただ、抗癌剤は癌の進行を止めるのが目的で、治すものではありません。今は余命5ヶ月と申し上げます」

A君
「抗癌剤しか方法はないのですか?」

内科医師
「放射線治療とか、他にもいろいろあるのですが、間質性肺炎が疑われて使えないのです。

それらの治療をして、かえって間質性肺炎が悪化する場合があり、その時は一気に肺が真っ白になって1ヶ月で死ぬ場合があります」

診察室から出て来たA君に「どうやった?」と聞きましたら

A君
「余命5ヶ月やて。抗癌剤治療するんやて。人生初めての体験がまた1つや。ワクワクやん。俺が抗癌剤したら、どんな感じになるんやろ。キャー、おもしろそう」

自身の余命5ヶ月宣告より、初めての体験にワクワクするA君。こんな調子でずっとあたしのピンチを救ってくれた彼ですが、なぁA君、今度は君がピンチなんやで。(つづく)